6. 散策しよう(準備編)

街歩きは旅行の最大の楽しみですね。早く出かけたいところですが、有意義な旅にするには準備が大切です。まずはパリの街について、それから散策には欠かせない交通手段について基礎知識を入れておきましょう!

 

1. パリを知ろう!

パリって?

みなさんご存じの通りパリはフランスの首都です。世界屈指の観光都市ですが、ロンドンと並んでヨーロッパの政治経済の拠点となる国際都市でもあり、世界都市ランキングでは常に上位にランクされています。フランスの行政区分ではパリは市でありながら県としても扱われ、イル・ド・フランス地域圏の行政の中心地にもなっています。市内の人口は約215万(2020年の統計)、市外の都市圏まで含むと1200万を超え、EU最大の都市部を形成しています。

パリ市はパリ盆地の中心に位置し、中心を東西にセーヌ川が貫いています。面積は東京の山手線よりひと回り大きいくらいです。市の東西は比較的平坦で、セーヌ川沿いに2時間ぐらいで端から端まで歩いていけます。南北は若干高低差があり、北部のモンマルトルは標高131m、サクレクール寺院前の広場からパリ市を一望することができます。パリ市内は20の行政区に分かれていて、ノートルダム寺院やルーヴル美術館がある1区を中心にして、かたつむりの殻のように時計回りに20の区が並んでいます。パリはセーヌ川を境にして、北の地区は右岸、南の地域は左岸と呼ばれています。右岸は商業を中心とする地域が多く、左岸にはソルボンヌ大学の名で知られるパリ第4大学を始めとする数多くの大学が立ち並ぶ大学街が広がっています。

 

パリの成り立ちと変遷

パリ市はセーヌ川の中州であるシテ島を中心に形成されました。紀元前からケルト民族のパリシイ人(Parisii)がシテ島にリュテシアという集落を作っており、これがパリの名の由来となっています。紀元前1世紀にフランス(当時の呼び名はガリア)がローマ帝国の属州となるとシテ島から左岸にかけて市街地が広がりました。5区にはこの当時の円形劇場や浴場跡が残っています。

パリがフランス王国の首都となったのは10世紀で、王権の強化とともに都市は発展しました。シテ島は行政の中心となり、右岸に市街地が広がりました。12世紀には市を囲む城壁が作られ、後のルーヴル宮殿となる要塞が築かれました。当時の城壁は「フィリップ・オーギュストの城壁」と呼ばれ、その一部は4区のマレ地区で観ることができます。

パリは学問の中心地でもあり、後にパリ大学になるパリ大司教座聖堂付の学校で、11世紀ごろから神学研究がさかんに行われました。左岸の大学街はカルチェラタン(le Quartier latin)と呼ばれていますが、これは中世期にラテン語を話す僧侶や神学生が多くいた地区であったことからついた呼び名です。都市の発展とともにパリの市街地は広がっていきましたが、防衛のため市内は19世紀まで城壁で囲まれており、市内に出入りする城門が各所に設けられていました。ポルト・ド・クリシー(Porte de Clichy)、ポルト・ド・ヴァンセンヌ(Porte de Vincennes)など、パリの地名や駅名には「ポルト(Porte)=門」がつくものが多いのは、かつてそこに城門があったことを示しています。

 

・パリについて知っておきたい基礎知識がコンパクトにまとまっています:

https://www.parisnavi.com/special/5032953

・パリの各カルチエを示した地図がわかりやすい!:

https://tricolorparis.com/paris-map-par-quartier/

2.パリと都市計画

華の都パリの誕生

19世紀の半ばまで、パリには中世以来の城塞都市の名残である狭く曲がりくねった道路の両脇に住居が密集した地域が多く残っていました。都市の人口も過密しており、日当たりや衛生状況も悪く、しばしば伝染病が蔓延し、騒乱が起きると狭い路地にバリケードが組まれ市民がゲリラ戦を行う原因にもなっていました(映画「レ・ミゼラブル」の戦闘シーンにありましたね!)。このような中世の名残を一掃してパリを近代的な都市に生まれ変わらせたのが、19世紀半ばナポレオン3世の時代に行われたセーヌ県知事ジョルジュ・オスマンによるパリ市の大改造です。オスマンの都市計画では、街路整備、上下水道等のインフラ整備が大々的に行われました。道路幅を拡張し直線にするため貧民街は取り壊され、パリ市の東西南北を直線でつなぐ大通りや広場と広場をつなぐ環状道路等、現在のパリの街路網が作られました。

オスマンの都市改造計画では都市としての美観も重視されています。この時代に建設・再建された建造物と言えばオペラ・ガルニエ(「オペラ座の怪人」の舞台です!)、パリ市庁舎が有名ですが、一般の建築物についても、高さ制限、各階や屋根の高さの統一、バルコニーのデザインの一定化等の規制をかけて建物の外観に統一感を持たせています。この他、市の東端と西端には森林公園(ブローニュの森、ヴァンセンヌの森)が、市内にビュット・ショーモン公園を始めとする都市公園が3つ設けられ、都市の生活環境も整備されました。こうして世界に誇る華の都となったパリでは、19世紀末から20世紀始めにかけ、数回にわたって万国博覧会が開催されています。今ではパリのシンボルともいえるエッフェル塔は1889年のパリ万博の際に建設されたものです。

 

パリの地下と建物の秘密

パリには世界遺産に認定される歴史的建造物がたくさんあります。19世紀末以後は鉄やガラスなど当時の新素材を使った建造物が作られるようになりましたが、多くの歴史的建造物と住宅は石材で作られています。この石材は実はパリの地下から採取されたものです。パリ盆地は柔らかい石灰岩でできていて、石灰岩は細工・加工が容易なため、採掘され石材として活用されてきたのです。大量の石材を切り出したためパリの地下は空洞になっているところが各所にあります。14区にあるカタコンブ・ド・パリ(地下納骨堂)はこの旧採掘場を利用したものです。地下の空洞化のため地盤が弱くなっているところもあり、このような地区には2階建ての低層住宅が建っています。低層住宅は小さな庭付き住宅が多くパリ中心地のアパルトマンにはない風情があります。「プチ・二コラ」など映画の撮影に使われたこともあり、ちょっとした観光スポットにもなっています。

 

景観保全と都市再開発のはざまで

フランスには景観を守るための条例が複数あり、例えば重要な歴史的建造物の周囲500mでは自由に建造物を建てたり、広告を掲示したりすることはできません。パリの歴史的景観が守られてきたのはこのような保全意識があってのことですが、同時に、都市の再開発が容易ではないという問題も抱えています。比較的建築規制が緩やかな13区、15区、17区では高層建築物が建てられていますが、パリの中心地には歴史的建造物が多くあり、大々的な再開発は難しいようです。このような問題を解決する手立てとして、数十年前から、建築規制が少ないパリ郊外に新都心のデファンス地区を設ける、パリの中心にあった中央市場(レ・アール)を郊外に移転して跡地を緑地と商業地に活用する等の都市計画が実施されてきました。数年前にレアール地区はリニューアルされ、ゆるやかな曲線を描く巨大な屋根(カノペといいます)に覆われたおしゃれな商業施設に生まれ変わっています。この他にセーヌ河岸の自動車道を廃止して人口のビーチにした「パリ・プラージュ」もパリっ子の人気を集めています。再開発プロジェクトは今も続行しており、現在では、パリ首都圏の大規模都市再開発計画 「グラン・パリ(Grand Paris)」が進められています。

 

・新しくなったレアールを紹介しています:

https://www.parisnavi.com/special/5059716

・東京都港区とパリ市が連携協定をむすんで進めているプロジェクトです:

https://www.clairparis.org/fr/247-ja-jp/clair-paris-blog-ja/2018-ja/1196-2020-2024

・Grand Parisを象徴するプロジェクト9つが紹介されています:

https://jp.france.fr/ja/paris/list/innovants-et-durables-9-projets-qui-metamorphosent-paris

3.フランス国内の交通機関

日本の約2倍の国土をもつフランス、そこではどのように移動したらよいのでしょうか。その手段を簡単にご説明します。旅に活かしてみてください。

 

フランス国内の移動

 だんぜんわかりやすくて使いやすいのは、鉄道です。SNCF(フランス国鉄)がパリを中心にして全国を結んでいます。自慢の高速列車TGVや、在来線の都市間特急列車Intercité、地域圏内を運行するローカル列車のTERがありますが、すべて統一された料金体系になっています。環境に優しい鉄道の利用を促進するため、夜行列車Intercité de nuitも復活してきています。Couchette(簡易寝台車)なら寝ながら移動できて、ホテル代が浮くので利用価値が高いですね。早いうちに予約すれば、非常に安く乗ることができます。

 チケットは現地に行って窓口で買うこともできますが、SNCFの予約サイト(https://www.sncf-connect.com/)から前もって予約し、クレジットカードで購入することもでき、便利です。TGVやIntercitéは早期割引もありますので、旅程が決まったらできるだけ早く予約しましょう。例えばParis~Marseille間(東京~広島県ほどの距離)がTGV Ouigo(廉価版TGV)でわずか20 €、というチケットを見つけることもできるでしょう。

さらには、12歳から27歳までの方が購入できるCarte Avantage Jeuneによる割引もあります。49ユーロでこの1年間有効のカードを購入すると、毎回チケットを購入時に、列車によって25%から50%の割引が受けられます。早期割引と比べてどちらが安いかを検討しながら、利用してみてはいかがでしょうか。

 鉄道に多く乗る場合は、ユーレイル・フランスパス(Eurail France Pass) (https://www.eurail.com/ja/eurail-passes/one-country-pass/france)がお得になる場合があります。数日間の旅行の中でどれだけSNCFに乗るのかを勘案しながら検討してみてはいかがでしょうか。フランス国内では購入できませんので、日本から用意していきましょう。

 ところで、鉄道網は中央集権国家フランスらしくパリを中心に発達しているので、たとえ地方都市から地方都市への移動する場合でも、TGVを乗り継ぎながらパリを経由した方が早くて、割引により安い場合もあります。

 その他にも、飛行機や高速バスを検討してみてもいかがでしょうか。特にパリから離れたNiceやToulouseといった都市に直に行くのには、断然飛行機の方が早くなります。LCC(vols lowcost)も発達していますので、安く移動できます。また、2016年に高速バスが自由化され、数多く運行されることになりました。時間こそかかりますが、わずかな値段で移動が可能です。

 以上のような長距離移動の手段を比較する際に使うことができるのが、Omioというサイト(https://www.omio.fr/)です。必ずしもリアルタイムで料金の結果を反映しているわけではありませんが、旅行前の計画を立てる際に参考にすることができるでしょう。

4.パリとイル=ド=フランス地域圏内の移動

 パリには多様な交通機関が存在します。パリ市とその隣接した街の交通輸送を担っているのはRATP(パリ交通公団)です。16路線の地下鉄métro、次々と建設される路面電車(トラム)tramway路線バスbusなどの運営を一手に担っていて、市民の便利な足となっています。わかりやすく観光に使いやすいのはメトロでしょう。チケットは共通に使うことができますが、買っただけでは乗車できません。メトロはチケットを自動改札に入れて時刻を刻印し、バスやトラムは乗車口に横にある改札機に入れて刻印すると、有効になります。メトロは改札を出なければ1枚のチケットで2時間以内乗り換え自由、バスとトラムは最初の改札から1時間30分以内なら乗り換え自由です。刻印を忘れ、検札にあうと有無を言わさず50€以上の罰金となりますので、不正乗車しないようにしましょう。また、10枚つづりの「Carnet」で、25%程度の割引となりますので、利用価値が高くなります。

 さらに、ICカード(Navigo Easy)やスマートフォンの普及によって、これらチケットを電子的に購入することができます。スマートフォンの場合は、アプリをダウンロードして購入することになります。また、この後で紹介するZone 1-2の定期券を購入するのも、利用価値が高いです。

 

・パリ市内のメトロ路線図 : 

https://www.ratp.fr/sites/default/files/plans-lignes/Plans-essentiels/Plan-Metro.1653922257.pdf

・パリ市内のバス路線図:

https://www.ratp.fr/sites/default/files/plans-lignes/Plans-essentiels/Plan-des-Bus.1646316250.pdf

 

これらの公共交通機関のほか、レンタル可能な自転車や電動キックボードが、パリ市内や隣接郊外のあちこちに用意されています。自動のレンタル自転車「ヴェリブVélib’」は、隣接郊外まで含めて1400以上のステーションがあり、そこで借りることができます。1日、3日、1年有効のチケットデータをICカードやスマートフォンに登録し、借りることができます。ステーションで借りてから30分以内にステーション(出発地と同じでも別でも)に返せばチケット代以上の追加料金はかかりません。長距離を行く場合は、30分以内に乗り継いでいくといいでしょう。電動キックボードtrottinetteは時速10kmに制限されているとはいえ、どこでも乗り捨て可能であり、手軽に乗ることができるものです。民間の3社ほどがサービスを行っていますが、最初にスマートフォンにそれらの会社のアプリをダウンロードする必要があります。地図上から現在キックボードのある位置がGPSによって示されていますので近くのものを探し出し、アプリを使ってハンドルにあるロックを解除します。時間ごとに料金がかかりますが、返却ボタンを押せば、乗り捨てはどこでも可能です。

 

・レンタル自転車Vélib’ : https://www.velib-metropole.fr/

・電動キックボード LIME : https://www.li.me/fr-fr/

パリを中心に郊外に向かって、イル=ド=フランス地域圏が広がっています。パリと郊外の都市を結ぶのが、パリ中心地にも乗り入れる5本の「RER」および、パリ市内7つのターミナル駅から出発する国鉄の郊外路線「Transilien」です。こちらは距離に応じた運賃のきっぷを前もって購入します。また、定期券は1週間券semaine、1か月券moisがあり、観光なら1週間券が使いやすいでしょう。パリを中心に1~5のZoneに分かれていて(パリ市内および隣接郊外はZone1-2、同心円状に5まで)、自分の乗車するZoneに応じて定期券を購入します。ICカードのNavigo Découverteを購入し、券売機でその中に定期券データーをチャージする形となっています。Navigo Découverteの購入には、窓口に顔写真を持って行って手続きすることが必要ですが、1回購入すると何回も使用することができるので、持っていて損はないですね。1週間の定期券はZone 1-5でも22,80€と、Zone1-3の値段と3ユーロ程度しか変わりません、。Zone 5のCharles de Gaulle空港からZone 1のパリ市内まで、乗ることができ、空港~パリ間の往復や、プロヴァンProvinsやフォンテーヌブローFontainebleauといったお城巡りなどの郊外散策にもってこいです。定期券購入の際には、1週間券なら月曜日から日曜日まで、1か月券なら毎月1日から末日までが有効期間となります(バカンス中などを除く)。有効期間の途中で購入しても値段は同じなので、よく検討して購入しましょう。また、1か月券の場合、週末つまり土日(および祝日、7月15日から8月15日、学校の長期休暇期間の一部)に限りNavigoのZoneが拡大され、なんと購入していないZoneまで追加料金なしで出かけられます。

 

・パリとその近郊の鉄道路線図:https://www.ratp.fr/sites/default/files/plans-lignes/Plans-essentiels/Plan-RER-et-transiliens.1646316579.pdf

・ICカード「Navigo Easy」について:https://www.ratp.fr/titres-et-tarifs/passe-navigo-easy

・ICカード「Navigo Découverte」と定期券について:

https://www.ratp.fr/titres-et-tarifs/forfaits-navigo-mois-et-semaine

 

最後にシャルルドゴール空港Aéroport Charles-de-Gaulleのアクセスですが、パリへ/パリからの公共交通機関であればRERやバス、タクシーがあります。最も早く本数の多いのは、RER B線です。メトロやRER各線との乗り継ぎもしやすく、パリ市内からアクセスしやすくなっています(ただし、途中治安のよくない所を通るので、スリやひったくりに十分注意)。空港内各ターミナルとパリのオペラ座Opéraを結んでいる「Roissybus」も、NavigoのZone 1-5の定期券で乗車可能です。途中無停車なので安心ですし、大荷物でも収納スペースが用意されています。タクシーはおおよそ70€ほどかかり、高額になりますが、荷物の多いときや夜遅くに到着した際などに使えるでしょう。地方に/地方から直接出向く場合には、空港直下にTGV駅があり、パリ市内を経由しなくても直通できる場合があります。

(価格を含めた各種データーは2022年6月現在のものです)